電気パン

 先日、東京の九段下で仕事があった帰りに、九段下駅のすぐそばにある「昭和館」という国立の博物館を訪ねました。

 

「昭和館は、主に戦没者遺族をはじめとする国民が経験した戦中・戦後(昭和10年頃から昭和30年頃までをいいます)の国民生活上の労苦についての歴史的資料・情報を収集、保存、展示し、後世代の人々にその労苦を知る機会を提供する施設です。」(昭和館のホームページ、「総合案内より」)

 

 電気用品安全法(電安法)の前身である、電気用品取締法(電取法)が制定されたのが昭和36年。電安法は今なお旧電取法の面影が色濃く残っているのですが、昭和30年代に家庭にはどんな電気製品があったのか、その実態が見られたらいいなあと、そんな目的でした。(その目的では、両国にある江戸東京博物館にも「高度経済成長期の東京」という展示があって、昭和30~50年代頃の電気製品が見られました。)

 

 そこで「電気パン焼き器」というスゴイ展示物を見ました。「電気」で「パンを焼く機器」、そりゃホームベーカリーのことかと思いきやそうではなく、「電気パン」と呼ばれる謎の食べ物を製造するという機器なのです。じゃあその「電気パン」とは何なのかというと、

 

電気パンとは、電気パン焼き器でパン種に電流を流すことで出るジュール熱を用いて作られるパンのことである。」(Wikipediaより)

 

 つまり、その「電気パン焼き器」によって製造された謎の食べ物が「電気パン」なのです、はい。

 

 撮影禁止だったのでここに「電気パン焼き器」の写真を載せられないのが残念ですが、インターネットで「昭和館 電気パン」といったキーワードで検索するとすぐに見つかると思います。

・適当な木材で上面の開いた箱(枡のようなもの)を作り、

・相対する二つの内側の面に金属板を貼って、

・コンセントあるいは天井の電球用口金からの交流100Vを、直接それらの金属板に突っ込む。

・パン生地に電流が流れ、ジュール熱で焼ける(蒸される)。

・水分が飛ばされ、電流が流れなくなったら出来上がり!

という、かなりワイルドなシロモノです。電極がガッツリむき出しなので、触れば当然感電するでしょう(まあ100V程度なら大丈夫という人もいるようですが)。昭和30年代のことなので、このくらいのものは家庭でお父さんが自作していたものと思いますが、昭和館の説明書きに「危険なものであった」とあるのもうなずけます。

 

 なお、昭和館の説明書きには「既成品も販売されていた」とあります。こういうワイルドなシロモノをたくさん作って広く販売するというのは、さすがによろしくないですね。こういうものを取り締まるために制定されたのが、当時の電気用品取締法というわけでしょう。そりゃそういうシロモノなら規制も必要と思いますよ。しかし現在の電安法は・・・、いったいいつまでその時代の面影を引きずるつもりなのでしょう・・・。